心臓の病気
動脈硬化などが要因になる
狭心症
監修・取材協力:岐阜ハートセンター院長
医学博士 松尾 仁司医師プロフィールへ

- 心臓へ栄養と酸素を運ぶ冠動脈の一部が狭くなっています。
- 動脈硬化などの要因から、プラークが血管につくことが原因。
- 血管の細さが数値で分かるようになりました。
- 狭窄が軽い場合は内服治療を経過をみます。
- 狭心症の基礎知識
- 狭心症の動向
- 狭心症の症状
- 狭心症の原因
- 狭心症の検査方法
- 狭心症の治療方法
- 狭心症の合併症
- 狭心症の自宅療法(療養方法、再発防止など)
- 狭心症の予防・対策方法
- 狭心症のリスクチェック
- 狭心症のセルフチェック

狭心症の基礎知識
心臓の表面に張り巡らせている冠動脈が何らかの原因で狭窄し、血流が不足する症状です。冠動脈は心臓の筋肉へ栄養や酸素を運んでいるので、酸素不足に陥った状態になり、症状が現れます。心筋が虚血の状態になっても再び元に戻り、ダメージは受けませんが、心筋梗塞へ以降する場合もあるので、注意が必要です。
狭心症の多くは時間をかけてプラーク(悪玉コレステロールや炎症細胞などが塊となったもの)が血管につき、徐々に血管が狭くなっていきます。

狭心症にはいくつか種類があります。
●労作性狭心症
階段をあがった時、重いものを持った時など、心臓から体内へ血液をたくさん送り出す必要がある動作をした時に、胸の痛みや苦しさを感じます。静かにしていると楽になります。
●不安定狭心症
動脈硬化によるプラークが破裂したり、血栓ができたりすることで、狭心症の症状が変化することがあり、心筋梗塞へ進行している危険性も考えられます。
具体的には、発作の頻度や持続時間が変化する、胸の痛みがひどくなる、発作の回数が増える、運動していないときに発作が起こるなどの症状の変化が現れます。
●安静時狭心症・冠けいれん性狭心症
狭窄の程度は低いものの、睡眠中、特に明け方に胸がしめつけられるような苦しさを感じます。冠動脈がけいれんを起こして収縮するため、血流が一時的に途絶えるために起こります。
狭心症の動向
●カテーテル検査時に狭窄の程度を数値化することができるようになり、冠動脈形成術(PCI)治療に適するかどうかを判断し、PCIの効果を高めることができます。(詳細は下記の検査方法、治療方法を参照)
●内服薬で治療をする場合、コレステロールを強力に下げる「PCSK9阻害薬」が使用できるようになりました。
狭心症の症状
圧迫感やしめつけ感、熱さを感じるなどの痛みがあります。場所は前胸部のほかにみぞおち、肩、頸、歯の奥が痛むこともあります。安静にしていると数分から長くても30分以内に治まります。
夜間、睡眠中、横になっているときなどに、2〜10分ほど続く発作が起きる人もいます。この場合は心筋梗塞の前兆として考えることもあります。

狭心症の原因
動脈硬化による悪玉コレステロールや炎症細胞などが塊となったプラークが血管を狭くしていく場合がほとんどです。
動脈硬化の危険因子には、糖尿病、高血圧症、高脂血症(コレステロール)、タバコなどがあるので、これらが元々の原因と考えることもできます。
そのほかに、冠動脈がけいれんを起こして収縮する場合、主に乳幼児に発症する川崎病の後遺症、また、大動脈弁膜症が原因になることもあります。
狭心症の検査方法
●心電図
正常時はわからない場合がほとんどですが、発作時には、STの変化がみられます。心臓のどの部分に異常があるのか、不整脈があるかどうかを確認することができます。
●運動負荷心電図
運動をして心臓に負荷をかけて、その心電図を記録し、負荷前後の心電図を比較します。負荷をかける方法としては階段昇降(マスター負荷)、ベルトコンベアでの歩行負荷(トレッドミルテスト)、自転車負荷(エルゴメーター)などがあります。比較的簡単に行うことができますが、不安定狭心症を疑われる場合は心筋梗塞へ移行することもありますので、施行できません。
●ホルター心電図
携帯用の心電図を日常生活下で24時間記録します。不整脈の診断に用いることが多い検査方法ですが、狭心症の診断の手助けになります。
●心臓超音波(心エコー)
狭心症では安静時や発作が起きていない時は正常のことが多いのですが、虚血が高度になっていると、安静時でも壁運動が低下することがあります。
●心筋シンチグラム
安静時・負荷時の心筋の血流の分布や代謝を調べます。心筋への血液量が十分かどうかをみます。
●冠動脈CT
冠動脈の狭窄を診断できる症例が増えており、血管の状態(石灰化や動脈硬化の程度)も判断できます。血管が細いかどうかは、数値で分かる重症度(CT FFR)を用います。
この検査は造影剤を腕の静脈から注射してCT撮影をするだけの簡単な方法です。時間は約15分程度で、入院の必要はありません。ただし、綺麗な画像を撮影するために、検査前に冠動脈の拡張薬や脈をゆっくりにする薬を使用します。
危険度の少ない検査ですが稀に検査後、蕁麻疹などのアレルギー症状を生じることがあります。また腎機能の悪い人は検査できないことがあります。
また、石灰化(血管がかなり硬くなっている)の多い場合やすでに冠動脈にステント治療がなされている場合は、冠動脈の狭窄の判断ができないこともあります。その際は冠動脈造影検査を行います。
●冠動脈造影(カテーテル検査)
カテーテルを手首もしくは肘・そけい部の動脈から冠動脈に挿入し、造影剤を使用して冠動脈の狭窄や閉塞が血管のどの部分にあるかをみる検査です。CTでは判断できないことがある石灰化の強い病変の狭窄やステント内再狭窄等も、診断可能です。また、必要であればそのままカテーテル治療に移行することができるのが強みです。
以前は血管の細さは術者に委ねられていたため、術者の経験が問われることがありましたが、狭窄の程度を数値で測る(FFR)ことができるようになりました。
実際には、プレッシャーワイヤーと呼ばれる柔らかいワイヤーを狭窄部分の奥まで入れて、狭窄の強さを測ります。数値が小さいと高度な狭窄が起きている、ということになり、カテーテルでステントを入れる治療を行います。数値が大きいと狭窄はそれほど高度ではないと判断します。
狭心症の治療方法
発作的に起きた胸の痛みを治めるために、ニトログリセリンの舌下投与またはスプレーを口腔内に噴霧します。ただし、ニトロは血圧を下げるので、座った状態で口に含みます。不安定狭心症は入院をして、ヘパリンやニトログリセリンの点滴投与をします。様子を見て、冠動脈造影を検討します。
治療法としては、カテーテル治療として冠動脈形成術(PCI)のほか、バイパス手術、薬物療法を行います。
●冠動脈形成術(PCI)
治療計画を立てて、安全かつ長く効果が続くように行います。冠動脈造影(カテーテル検査)によって、狭窄している部分を判断し、ステント(網目状の金属製の筒)を血管に植え込みます。カテーテルを使ってステントを狭窄部まで送り込み、バルーンで膨らませて狭窄を押し広げて拡張させ、ステントを留置します。ステントの性能を生かすために、血管の硬い部分やプラークが多すぎる場合は血管を削ってからステントを使用します。
PCI治療を行った後も病気は進行するので、生活習慣の改善も必要になります。

●冠動脈バイパス手術
人工心肺の装置を用いて、心臓を停止させ、新しい道(バイパス)をつける手術です。
●薬物療法
程度が軽い狭心症には内服薬の治療が勧められます。薬によって血管の緊張を緩め心臓の負担を減らして、血液を固まりにくくしておきます。
ガイドラインでは、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の目標コントロール値は70mg/dlが推奨されています。
また、近年、内服薬でコントロールできる場合には、注射薬であるコレステロールを強力に下げる「PCSK9阻害薬」が使用できるようになりました。ただし、価格が高く、注射でしか治療はできません。
狭心症の合併症
治療も何もしない場合、心筋梗塞へと移行することがあります。
冠動脈形成術(PCI)を行った後でも、再狭窄する場合があります。
狭心症の自宅療法(療養方法、再発防止など)
手術をしたからといって安心は禁物。動脈硬化を促進する因子、主に高血圧、糖尿病、高脂血症、禁煙、肥満などのコントロールをすることが大切です。血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの危険因子を持っている方以上に、術後は心疾患を患いやすいため、数年ごとに定期的な検査を受けましょう。
再発の危険が高い人は「PCSK9阻害薬」の使用も検討されます。
狭心症の予防・対策方法
発作そのものの予防、動脈硬化の進展の予防が必要です。
発作の予防は血管拡張薬や抗血小板剤(血をサラサラにする薬)を使用します。血管拡張薬は発作の種類によって薬剤が異なります。
[動脈硬化の予防]
・肥満を解消する。
・動物性脂肪を減らす。
・適度な運動を取り入れる。
・喫煙を控えめにする。
など
狭心症のリスクチェック
□ 日中に屋外で仕事をしている
□ 冷たい水をがぶがぶ飲む
□ 暑さで食欲がない
□ 冷房を24℃以下で利用している
□ 水分をあまり摂らない
狭心症のセルフチェック
□ みぞおち、肩、頸、歯の奥が痛み、数分〜30分以内に治る。
□ 胸の痛みがひどくなる、発作の回数が増える
□ 静かにしている時にも症状が現れるようになった。
□ 睡眠中に胸がしめつけられるような苦しさを感じる。
↓
このような症状がある場合は狭心症が疑われます。