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がん死亡原因第1位
肺がん

監修・取材協力:愛知県がんセンター
副院長
呼吸器内科部長
医療情報管理部長
地域医療連携・相談支援センター長
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樋田 豊明

Medical.T 編集部 M.Ito

  • 肺がんはがん死亡原因第1位
  • 非喫煙者の肺がん患者が増加している
  • 肺がんは大きく4種類に分けられる
  • 小細胞肺がんと扁平上皮がんは喫煙によって発生のリスクが高まる
  • 自覚症状がほとんどない
肺がんは“タバコを吸う人がなる病気”だと思われがちですが、近年は喫煙者が減っているにもかかわらず、肺がん患者が増加。非喫煙者にも多く発生しています。タバコを吸っていないから大丈夫と考えず、定期的に肺がん検診を受診しましょう。

肺がん-基礎知識

肺がんは、何らかの原因で気管支や肺胞などの細胞の遺伝子に傷がつくことで発生します。タバコや化学物質が肺がんの原因になるとされていますが、大部分は不明です。2017年の統計では、日本人の肺がん死亡者は74,120人(男53,002人、女21,118人)で、がん死亡原因の1位となっています。

●部位別がん死亡者数(2017年)
肺がんは年間約7万人が死蔵する、がんの中で最も死亡者数が多い病気です。
部位別がん死亡者数(2017年)
●肺がんは発生する場所などにより、大きく4種類に分けられます。
①小細胞肺がん【患者数10%】
小さな細胞が密集して広がるがんで、主な原因は喫煙。肺の入り口付近に発生することが多く、進行が速く転移しやすい。化学療法や放射線に対する感受性が高い。
小細胞肺がん
<非小細胞肺がん>
②扁平上皮がん【患者数20~30%】
気管支の壁にできるがんで、主な原因は喫煙。近年、喫煙率低下に伴い減少傾向にある。
扁平上皮がん
③腺がん【患者数(大細胞がんとあわせて)60~70%】
肺の末梢(気管支の細い部分から先)に発生するケースが多く、初期段階では症状が見られない。近年急増しているがんで、患者数が最も多い。非喫煙者の割合が高い。
腺がん
④大細胞がん
肺の末梢に発生するがん。初期症状では自覚症状が見られなく、腺がんと同じく非喫煙者の割合が高い。
大細胞がん

肺がん-近年の動向

近年では喫煙者の減少により小細胞肺がんと扁平上皮がんは減少傾向にあります。また、治療に関しては、肺がんの薬物治療が大きく進化しています。従来の抗がん剤治療に加え、分子標的療法、免疫療法が取り入れられています。これまでは肺がんの種類によって治療法を決めていましたが、今では“遺伝子のどのような異常でがんが発生しているか”が、治療法を決める上で重要になっています。

肺がん-症状

小細胞肺がんと扁平上皮がんは、肺の中でも口に近い部分に発生するケースが多く、気管支を刺激するため咳が主な症状として現れます。咳は風邪と似ていて見逃しやすいので、注意が必要です。
一方、腺がんと大細胞がんは肺の奥に発生するため、自覚症状がほとんどありません。肺には痛みを感じる神経がないため痛みを感じず、がんが進行して胸膜に進展するとはじめて痛みが出たり、水が溜まって息苦しさを感じたり、自覚症状が現れます。症状が出た頃にはかなり進行しているケースが多いため、「肺がん検診」での早期発見が何よりも大切です。しかし、肺がんの早期では単純写真には写らない場合もあり、検診によって肺がんの死亡リスクが減少する割合は半分程度であり、これにも限界があります。最近は低線量CTが検診に導入されるようになり、さらなる肺がん死亡の減少に役立つかが検討されています。

肺がん-原因

現時点で原因はわかっていませんが、気管支や肺胞などの細胞の遺伝子に傷がつくことで発生します。4種類ある肺がんの中でも、小細胞肺がんと扁平上皮がんは喫煙によって発生のリスクが高まることがわかっています。受動喫煙や生活環境、食生活、放射線なども、遺伝子を傷つける原因として考えられています。

肺がん-検査方法

“肺がんであるかどうか”を検査するために、肺内の病変に対して気管支鏡検査を行い、組織の一部を採取し病理検査を行います。

肺がん-検診から治療まで

遺伝子検査にて“遺伝子のどのような異常でがんが発生しているか”を調べ、治療法を決めていきます。“肺がんがどのくらい進行しているか”を検査するために、胸部X線写真、CT(コンピュータ断層写真)で画像検査を行います。胸部のリンパ節の他に、脳、肺の他の部分、肝臓、副腎、骨などへの転移の有無を調べることも重要です。

肺がん-治療方法

肺がんは、早期であれば「手術」が最も治癒の期待できる治療法ですが、発見された時には進行している場合が多く、手術のほかに化学療法(抗がん剤治療)、分子標的療法、免疫療法、さらにこれらを組み合わせた治療を選択します。

●化学療法(抗がん剤治療)…がんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療法。自身の正常な細胞にも攻撃をするため副作用が重くなるデメリットがある。

●分子標的療法…がん細胞だけが持つ生存・増殖に関する物質のみを標的にして攻撃する治療法。遺伝子変異のがんには感受性が高いが、喫煙者に多い小細胞肺がん、扁平上皮がんでは効果が期待できないことが多い。

●免疫療法…通常自分のリンパ球は、がん細胞への攻撃にはブレーキがかかっているため、そのブレーキを解除し、自分のリンパ球を使ってがんを攻撃する治療法。化学療法の効かなくなった患者さんにも効果が見られることがある。頻度は高くはないがいろいろな副作用はある。最近では、初回の肺がん治療から用いられることもある。

以前は小細胞肺がんか非小細胞肺がんかを診断して治療法を決めていましたが、今では、“遺伝子のどのような異常でがんが発生しているか”が、治療法を決める上で重要になっています。近年、免疫治療が登場したことで、治療の選択肢が広がりました。どのような人に免疫治療が効くかまだはっきりとしていませんが、抗がん剤治療が効かない人でも一定の割合で免疫治療が効くことがわかっています。

肺がん-合併症

肺は酸素と二酸化炭素を交換するため、毛細血管やリンパ管が取り巻いています。そのため、肺にがんができると、血液の流れやリンパの流れに乗って、他の臓器へ転移しやすいと考えられています。肺がんの治療が難しいと言われるのはこのためです。

肺がん-療養と副作用

化学療法(抗がん剤治療)による副作用として、悪心・嘔吐、骨髄抑制、脱毛、神経障害、腎障害などが挙げられます。

肺がん-自宅療法(療養方法、再発防止など)

禁煙はもちろんのこと、家族も禁煙することが大切です。バランスのとれた食事や十分な睡眠など、規則正しい生活を心がけましょう。

肺がん今すぐはじめる 予防と対策

禁煙を徹底しましょう。タバコを止める以外に、現時点で肺がんの予防方法はありません。腺がんの原因が判明してこれば、予防法がわかってくるかもしれません。

肺がん リスクチェック

□ 喫煙者
□ 50歳以上の男性
□ よく咳がでる
□ 身近に喫煙者がいる
□ 血痰がでる
□ 胸痛を感じる
□ 肺がん検診を受診したことがない

肺がん セルフチェック

□ タバコを吸う

下記のような症状はありますか?

□ 熱はないのに咳が続く
□ 血痰が出る

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