心臓の病気
心臓弁が変性・硬化して起こる
心臓弁膜症
監修・取材協力:岐阜ハートセンター院長
医学博士 松尾 仁司医師プロフィールへ

- 弁の何らかの原因により、うまく動かなくなった状態の病気です。
- 治療方法はさまざま。弁の状態や患者の年齢、状態によって選択されます。
- 高齢者の患者が増えています。
- 65歳を過ぎたら、心臓の検査を定期的に受けましょう。
- 心臓弁膜症の基礎知識
- 心臓弁膜症の動向
- 心臓弁膜症の症状
- 心臓弁膜症の原因
- 心臓弁膜症の検査方法
- 心臓弁膜症の治療方法
- 心臓弁膜症の合併症
- 心臓弁膜症の自宅療法(療養方法、再発防止など)
- 心臓弁膜症の予防・対策方法
- 心臓弁膜症のリスクチェック
- 心臓弁膜症のセルフチェック

心臓弁膜症の基礎知識
心臓には血液が逆流しないように4つの弁(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)がついています。この弁が炎症や外傷、先天的など、なんらかの理由により、動かなくなった病気を心臓弁膜症といいます。
心臓弁膜症には数種類のタイプがあります。

●大動脈弁狭窄症
大動脈弁は血液を送り出す左心室の出口にある弁です。半月形をした3枚の膜からできています。大動脈弁狭窄症は、大動脈弁が硬くなって十分に弁が開かず、心臓の出口が狭くなり、血流がスムーズにいかない状態の病気です。血液が大動脈に流れにくくなるため、少しでも多くの血液を大動脈へ送り出そうとして心臓がより一層、収縮します。そのため、左心室の筋肉が厚くなり、左室肥大を起こします。
生まれつき、弁が2枚しかない先天性の場合や加齢や動脈硬化などで発病する後天性のものがあります。緊急的な治療は必要ありませんが、進行性の病気で、薬で治らなかったり、心不全になったり、症状が出ると予後が悪くなります。
●大動脈弁閉鎖不全症
心臓の出口にある大動脈弁が完全に閉まらないために、血液の逆流や漏れが生じている状態です。弁自体に原因がある場合と、大動脈の障害で発症する場合があります。
若年から中年に多く見られます。
●僧帽弁狭窄症
僧帽弁は、心臓の左心房と左心室の間にある弁です。弁が開いている時は肺から送られた血液を左心房から左心室へ導き、弁が閉じている時は血液が逆流するのを防ぐ役割をします。
弁が十分に開かなくなった状態を「僧帽弁狭窄症」といい、血流が悪くなり、肺の血管に血液がたまってきてしまいます。血管の中から水分が漏れると、肺が水浸しになる「肺うっ血」や「肺水腫」という重篤な心不全を引き起こします。
以前はリウマチ熱が原因とされていましたが、最近は動脈硬化からの発症が多くなってきたとされています。
●僧帽弁閉鎖不全症
心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁が完全に閉じることができなくなり、血液が逆流してしまう状態です。加齢に伴う弁の変性のほか、感染症や外傷、心筋梗塞や心筋症、心房細動などによる心拡大に伴って起こる場合もあります。
心臓弁膜症の動向
●高齢化により、患者数増加しています。中でも、大動脈弁狭窄症が増えています。
●大動脈弁狭窄症の手術に経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が用いられるようになりました。
心臓弁膜症の症状
自覚症状がない場合も多いのですが、息切れ、動悸、全身倦怠感、むくみなど、心不全の症状がある場合は注意が必要です。不整脈も頻繁に起こります。
種類別には、大動脈弁狭窄症は意識を失うような発作が起こったり、狭心症や心不全の症状が起こったりします。大動脈弁閉鎖不全症は息切れや呼吸困難、動悸などがあります。
僧帽弁狭窄症の場合、息切れや呼吸困難、咳や血の混じった痰、喀血(かっけつ)などがあります。僧帽弁閉鎖不全症の場合、軽度であれば無症状ですが、進行すると全身倦怠感、動悸、呼吸困難などがあります。
心臓弁膜症の原因
以前はリウマチ熱の後遺症で弁が変性したことが原因となることが多かったのですが、抗生物質の普及により、リウマチ熱が原因となる弁膜症は減少しています。その代わり、加齢による弁の変性や動脈硬化や心筋梗塞などが増えているほか、原因を特定できないこともあります。
先天性の弁の形成異常によって起こる場合もあります。また、膠原病や血管炎の炎症が原因になったり、感染性や外傷で変性した場合だったり、まれですが、薬剤が原因になることもあります。
心臓弁膜症の検査方法
高齢による弁膜症が多くみられることから、65歳以上の人は定期的な心臓の検査を受けることが勧められています。
診察時の聴診による心雑音、心電図異常がきっかけに発見されることが多くあります。正確な診断は心エコー検査が行なわれます。
●心臓超音波(心エコー)
弁膜症を起こしている弁を特定し、その動きや狭窄、逆流の度合いを測定します。
そのほか、弁の状態の詳細を知るために、心臓CT検査、心電図検査、レントゲン検査、心血管造影法、心核医学検査(アイソトープ検査)を行うこともあります。
心臓弁膜症の治療方法
●弁置換術
悪くなった弁を取り除き、機械弁または生体弁に取り替える手術です。すべての心臓弁膜症で行うことができます。
機械弁は主にチタンを用います。抗凝固剤(ワーファリン)が必要になりますが、弁の寿命を30〜40年保つことができます。生体弁はブタまたはウシの心膜で造られます。抗凝固剤は不要ですが、弁の寿命が10〜20年と短くなっています。
手術は前胸部を切開し、人口心肺機を使って全身へ血流を確保しながら、心臓を停止させて行います。手術時間は3〜4時間、入院は10〜14日ほどかかります。退院後に手術前の生活レベルにまで回復するためには3ヶ月ほどかかります。
●弁形成術
自己の弁を利用し、形成する手術です。抗凝固剤は不要で、弁解放も良好、長期的な状態も良好です。すべての心臓弁膜症で行うことができます。ただし、自己の弁が硬くなっていない場合に限ります。

●大動脈弁再建術
10年ほど前に始められた治療法で、自己の心膜を使って弁を作り上げます。自分の組織を使うため、異物反応がなく、弁の解放面積が広いのが特徴です。抗凝固剤は不要です。自己の大動脈弁が硬くなっていなければ、大動脈弁形成術が行われます。
●経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)
大動脈弁狭窄症に対する治療法です。カテーテルを血管に挿入して人工弁に取り替えます。
大動脈弁狭窄症の場合は弁の老化が原因になっているため、外科的治療を行うのが一般的で、これまでは大動脈弁置換術を行っており、体への負担もありました。
「TAVI」は足の付け根や心尖部(心室の先端部)からカテーテルを入れて行い、心臓を停めることもありません。体への負担が少ないため、今まで治療が不可能だった人にも対応できるようになりました。入院も1週間ほどで、術後の回復も早いのが特徴です。

●薬物療法
手術ができず、薬物(内服)でしか治療を受けることができない人もいます。抗凝固剤、強心薬、血管拡張薬など、患者に合わせた内服薬が処方されます。ただし、出血傾向がある人や薬を飲めない高齢者もいるので、注意が必要です。
[抗凝固剤(ワーファリン)について]
血流を促すために、血液を固まりにくくする薬です。ケガをした時などに出血をした時は慌てず、出血箇所を押さえていれば止まります。ワーファリンの服用量は血液検査の結果によって変わります。自己判断での服用量の増減、中止はしてはいけません。また、納豆はワーファリンの効果が低下するなど、食事にも注意しなければいけません。
心臓弁膜症の合併症
心房細動、肺うっ血、心不全などがあります。
腎機能に影響を与えることもあります。
心臓弁膜症の自宅療法(療養方法、再発防止など)
心臓に負担がかかるような運動や作業を避け、体重の増加にも気をつけます。水分制限や塩分制限があり、むくみがないかどうかをチェックします。十分な睡眠をとって体調を整え、風邪などをひかないように気をつけましょう。
心臓弁膜症の予防・対策方法
予防が困難な病気です。加齢に伴う心臓弁膜症が増加しているため、65歳を過ぎたら心臓の検査を受けておくことが大切です。
そのほか、感染が原因となる心臓弁膜症の予防として、口腔内感染の防止のために、きちんと歯磨きを行いましょう。
心臓弁膜症のリスクチェック
□ 高齢
□ 動脈硬化または心筋梗塞がある
□ 過去にリウマチ熱が出たことがある
心臓弁膜症のセルフチェック
□ 胸の痛みがある
□ めまいや失神することがある
□ 健康診断で心雑音があると言われた
□ 休憩することが増えた
□ ときどき、足がむくむことがある。
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