心臓の病気

治療が必要ないものから危険なものまである
不整脈

監修・取材協力:岐阜ハートセンター院長
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医学博士 松尾 仁司先生

Medical.T 編集部 A.Ito

  • 誰にでも起こりうる症状で、ほとんどの場合は心配ありません。
  • ただし、重い不整脈は心臓をはじめ、ほかの臓器にも影響を与えます。
  • 脳梗塞の3分の1は不整脈の一つ「心房細動」から起きています。

不整脈の基礎知識

一定の間隔と強さで打つべき心臓が、なんらかの理由でリズムが乱れた状態を不整脈といいます。
整脈の種類には4種類あります。
・期外収縮 脈がとぶように感じる
・頻脈 脈が速くなる(脈拍が1分間に100回を超える)
・徐脈 脈が遅くなる(脈拍が1分間に50回以下になる)
・細動 心筋が痙攣したように動く

健康な成人にも不整脈は起こることがあり、治療の必要のないものから危険なものまでさまざまあります。健康診断などで不整脈を指摘された場合は、どのような不整脈なのか把握することが大切です。中には、放置していた場合、突然死を起こすような危険性の高い不整脈もあるためです。
治療が必要な不整脈には、それほど重症ではありませんが、長時間放置すると血液循環が悪くなって死亡することもある「準致死性不整脈」や放置していると短時間で死亡する危険性の高い「致死性不整脈」があります。

●心房細動
高齢化に伴い、近年、増加傾向にある不整脈です。心房細動は心房の電気刺激生成が1分間に300〜600回と、非常に速く不規則に細かくけいれんを起こしているような状態になります。心房が細かく動くため、血液を心室にうまく送り出せず、心房内に血液のよどみができます。血液がよどむことで、心房内で血液の塊(血栓)が生じ、これが心室、大動脈を介して脳の血管までとび、これが閉塞することで脳梗塞を発症することもあります。

不整脈の動向

脳梗塞の3分の1は心房細動から起こるといわれており、脳梗塞の原因として「心房細動」が注目されています。年齢が75歳以上糖尿病高血圧心不全がある、脳梗塞の既往歴がある人は脳梗塞を起こしやすいことも分かりました。ただし、これらの危険因子をもっていなくても若い人が脳梗塞を発症することもあるため、油断はできません。
心房細動の治療にDOAC(抗凝固因子を阻害する薬)を用いることができたり、冷凍アブレーションが可能になったり、新しい治療法も増えています。

不整脈の症状

不整脈は自分ではまったく気がつかない人もいますが、不整脈の状態によっては自覚症状を伴うものもあります。心房細動、心房粗動、上室性頻拍などの頻脈発作を繰り返す場合や期外収縮の多発がある場合は強い動機を自覚します。また、発作性洞停止の場合は強いめまいや失神発作が起こります。

不整脈の原因

・加齢
・不整脈を起こしやすい体質
・心臓に病気がある人(心不全、心筋梗塞、心臓弁膜症など)
・生活習慣病のある人(高血圧、糖尿病など)
そのほか、ストレスや睡眠不足、疲労などで自律神経のバランスが崩れている人、ストレスがある人、喫煙や飲酒の常習がある人なども不整脈が起こりやすくなります。

不整脈の検査方法

一般的には心電図検査を用いて、心臓の電気的活動を見ます。
心電図検査には下記の種類があり、体の状態や病態によって行なわれます。
●誘導心電図検査
一般的な心電図検査です。ベッドで横になり、手、足、胸などに電極を貼り付け、心電図を記録します。
●ホルター心電図
小型の心電計を装着し、24時間心電図検査を行う方法です。心房細動のように、一時的にしか発症しない不整脈の診断につながります。
●運動負荷心電図
ベルトの上を走るトレッドミル、自転車をこぐエルゴメーター、階段昇降などを行い、運動時の心電図を記録します。
●電気生理学的検査(EPS)
カテーテルを用いて、電気的刺激を与えながら、心臓内の刺激電動系の状態を調べます。不整脈の原因や場所など、詳細を判定することができます。

不整脈の治療方法

心臓のリズムを正常に戻すことを目標に治療が行われますが、やたらむやみに強い薬剤を長期間使用すると、不整脈は改善しても、その他の薬によって不整脈を起こさせてしまったり、副作用でかえって予後を悪化させたりすることが分かっています。
そのため、治療をせず、経過を見ることもあります。症状が軽い場合は薬を用いず、生活習慣の改善をする場合もあります。

●薬物療法
基本的には薬物療法を行います。抗不整脈薬で不整脈そのものを止めたり、症状を和らげたりします。脳梗塞を予防する抗凝固剤を使用します。

●カテーテルアブレーション
薬物療法より効果が強く、長期の効果が見込めます。また、すぐに日常生活に戻ることができるので、働き盛りの方にすすめることができます。

●高周波アブレーション
不整脈の原因となる場所に高周波エネルギーを焼灼します。心臓へ電極カテーテルを挿入し、電気エネルギーで障害することで、不整脈を抑えることができます。不整脈の種類にもよりますが、根治性の高い治療法です。

●ペースメーカー
徐脈性不整脈に対して行う治療です。脈が一定以上に遅くなった場合、電気刺激を心臓に与え、脈を保ちます。皮下ポケットが不要なリードレスペースメーカーも登場しています。

●植込み型除細動器(ICD)
重篤な不整脈に対する治療です。除細動器(ICD)を手術によって植込み、脈を24時間監視して命に関わる不整脈が起こった際に、電気刺激や電気ショックで不整脈を停止させます。

[心房細動の治療について]
心房細動からの脳梗塞の予防のためには、発症リスクの高い方には抗凝固剤の内服が必須になります。以前はワーファリンを使用していましたが、その他の薬や食べ物の制限が多く、コントロールが大変でした。最近はDOAC(直接、抗凝固因子を阻害する薬)を用いることで、コントロールしやすくなり、合併症を減らすことが可能となっています。
冷凍アブレーションによる治療も可能になりました。原因となる場所を、バルーンで拡張し、内部を液体亜酸化窒素により凍結凝固させて治療します。凍結に球形のバルーンを用いるので、心房や肺静脈が変形していると、バルーンが均等に当たらず、治療困難なことがあります。このため、比較的若く、心房変形が少ない方がこの治療に適しています。高周波アブレーションより凍結アブレーションは障害範囲も広く再発が少ないとされ、非常に期待されている治療法です。

【球形のバルーンを用いた冷凍アブレーション】
球形のバルーンを用いた冷凍アブレーション
自分の弁を使って形成し、再び、弁の機能を回復させる。

不整脈の合併症

心房細動をきっかけに脳梗塞、または、心不全を合併することもあります。1分間に130拍以上の極端な頻脈、逆に40拍以下の極端な徐脈が長時間続くと、心筋に負荷がかかります。もともと心臓病があると容易に心不全を誘発することがありますが、近年は基礎心疾患がまったくなくても、長時間、頻脈が起こることにより、心筋細胞が変性し、「頻脈誘発性心筋症」という病態になることが注目されています。

不整脈の自宅療法(療養方法、再発防止など)

薬を処方された場合は指示通りに服用しましょう。
精神的・肉体的ストレスを与えず、不眠や不安、緊張などのストレスを避け、規則正しい生活を心がけましょう。

不整脈の予防・対策方法

危険因子となる生活習慣を改善することが予防につながります。過労、ストレス、睡眠不足、コーヒーやアルコールの過剰摂取、喫煙などをしている場合は見直し、規則正しい生活ができるように心がけましょう。
薬を内服している場合は管理をしっかりすることも必要です。

不整脈のリスクチェック

□ 高齢
□ 心臓の持病(心不全、心筋梗塞、心臓弁膜症など)がある
□ 生活習慣病(高血圧、糖尿病など)がある
□ たばこをよく吸う
□ よく飲酒をする
□ ストレスが多い

不整脈のセルフチェック

□ 意識がなくなりそうな時がある。
□ 急に失神する。
□ 脈拍が極端に減り(1分間に40以下)、強い息切れを感じる。
□ 突然、動悸が起こる(脈拍が1分間に140以上)。
□ 脈がバラバラで速く打つ。

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