脳の病気

FASTが肝心!夏に多発!
脳梗塞のうこうそく

監修・取材協力:医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医
中島 利彦医師プロフィールへ

医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医 中島 利彦

Medical.T 編集部 M.Hioki

  • 脳梗塞は暑い夏に多発しやすい
  • 脳梗塞は脳の血管がつまって脳細胞が死んでしまう病気。
  • 脳梗塞には脳血栓症と脳塞栓症がある。
  • 夏は熱中症と間違われやすいため、片麻痺などで見分ける。
  • 一過性脳虚血発作も軽視せず、病院へ。

脳梗塞の基礎知識

脳梗塞は、突然発症します。脳の血管がつまって血液が流れなくなるために、脳細胞が死んでしまう病気です。脳梗塞には、血栓(血のかたまり)が脳の血管の中にでき、血管がつまる脳血栓症と、心臓や血管の中にできた血栓が脳の動脈に流れ込み、血管を塞いでしまう脳塞栓症とがあります。脳血栓症には、脳の細い動脈で詰まる「ラクナ梗塞」と比較的太い動脈で詰まる「アテローム血栓性脳梗塞」があり、脳塞栓症では心臓からの血栓が脳の血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)」が代表的な3つとなります。
脳梗塞には前兆があることが少なくないため、倒れる前の症状の片麻痺や言語障害などのサインを見逃さないようにし、症状があったら、すぐ病院へ行きましょう。
脳梗塞の前触れ発作として重要と言われている「一過性脳虚血発作」があった場合は、速やかに病院を受診しましょう。一過性脳虚血発作は、一時的に運動麻痺や言語障害などの脳梗塞の症状が現われ、数分から1時間以内(時には24時間以内)に消失してしまう発作です。一時的なため軽視されやすいですが、そのまま放置しておくと脳梗塞を引き起こす可能性が高いため、すぐ専門病院へ受診しましょう。検査、治療を早めに開始することで脳梗塞発症の危険を減らすことができます。
また、脳梗塞は暑い夏に多発しやすいため、夏場は特に注意です。汗をかき、脱水状態になると、血液がドロドロになり血栓ができやすくなります。その血栓が脳の血管を詰まらせることにより脳梗塞に繋がることが多いようです。脳出血の初期症状の中で、めまいや吐き気、ふらつきといった症状は、熱中症に似ている時もあるので注意が必要です。脳梗塞の場合は、片麻痺がみられることも多いため、そういった症状がある場合は、脳梗塞を疑い、すぐに119番へ連絡し、救急搬送してもらいましょう。

脳梗塞の近年の動向

以前は脳卒中では、脳出血の割合が多かったものの、近年では、その割合は著しく減少し、脳梗塞が増えてきました。脳出血の原因である高血圧対策の普及と、生活習慣の変化による糖尿病や脂質異常症の増加が考えられています。日本では欧米に比べてラクナ梗塞の割合が多い傾向でしたが、糖尿病や脂質異常症の増加にともなって、アテローム血栓性梗塞が増えています。また、高齢化にともない心房細動の人が増え、心原性脳塞栓も増加しています。

脳梗塞の症状

脳梗塞を起こすと、永久的な麻痺や生活に支障を来す重大な後遺症を残したり、最悪の場合には命の危険性も高まるため、初期症状を知ることが極めて重要です。
代表的症状として最も多いのは片麻痺です。顔の左右のどちらか半分や、片方の手や足が急に動かなくなったりし、同じ部位にしびれを生じたり、鈍さを感じたりすることもあります。
次いで症状としては、言語障害です。突然、言葉が出なくなったり、呂律が回らなくなったりします。
他には、運動失調や目に症状が見られる場合があります。運動失調は、起立・歩行時のふらつきや、手の細かな動作が障害され、普段の何気ない動作が円滑にできなくなり、目の場合は、急に片目が見えなくなったり、見える範囲が狭くなったりします。脳の血管が詰まる部分によって症状はさまざまです。まれに、突然昏睡状態になる場合もあります。

脳梗塞の検査方法

脳梗塞は放置すると、時間とともに後遺症の程度がどんどん悪化する危険な病気です。そのため、脳梗塞を疑う症状を自覚したら、すぐに病院へ行き、検査を受ける必要があります。
まず、脳MRIの検査で、脳梗塞が起きているのかどうかを確認します。MRIの核酸強調画像で高信号を認めることが確定診断のひとつとなり、どの辺りの血管が詰まっているかを予測します。詰まっている部分を確定するために血管内カテーテルを用いた脳血管撮影を行うこともあります。

脳梗塞の治療方法

脳梗塞の急性期の治療としては、血栓を溶かすt-PAという薬の点滴を行う方法があります。血栓が大きい場合は血管内カテーテルで血栓を取り除く治療もおこなわれます。ひとたび脳梗塞が起こると10年以内に50%の人が再発すると言われますので。慢性期には脳梗塞を予防する治療が中心となります。クナ梗塞やアテローム血栓症の場合は、抗血小板薬による薬物治療が行われます。頚部の動脈に強い狭窄がある場合には、外科治療も行なわれ、頚動脈内皮剥離術(CEA)という動脈硬化を起こして血管を狭めている部分(プラーク)を除去する手術と、血管内にステントを置き、狭窄部分を広げるステント留置術(CAS)があります。
心原性脳塞栓症の予防には、抗凝固薬が有用となります。抗凝固薬の種類として、これまではワルファリンという内服薬が主流でしたが、最近はDOACと呼ばれる新しい抗凝固薬が登場しています。DOACは、ワルファリンに比べて副作用としての頭蓋内や頭蓋外における出血リスクが低いと考えられています。

脳梗塞の合併症

小さな、脳梗塞の場合は、一つではあまり症状が出ないことがあります。でも、小さな脳梗塞が知らず知らずのうちに増えていき、何箇所かに脳梗塞が起こると、物が飲み込みにくくなる(嚥下障害をおこす)ことがあります。また、手が震えたり、動作が素早くできなくなったり、歩幅が狭くすり足になったりといった、パーキンソン症候群を生じることもあります。

脳梗塞の自宅療法(療養方法、再発防止など)

再発予防が最も大切です。処方された薬をきちんと内服して、適度に水分を摂る様に心がけることが大切です。

脳梗塞の予防・対策方法

脳梗塞は、高血圧やメタボリック症候群、喫煙などの生活習慣病の改善が、再発や悪化に対する予防につながると考えられます。
また、高齢化社会になり心房細動という不整脈の人が増えて、心原性脳塞栓症になる人が増えてきています。心房細動を指摘された場合は、薬の性質を良く知っている専門医と相談し、心臓の中に血塊ができないようにする薬を内服して脳塞栓症を予防します。

隠れ脳梗塞のチェック

□ 足がもつれたり、小さい段差で、つまづくことがある。
□ 手先が不器用になった、文字が上手く書けなくなった。
□ 手先に力が入りにくいことがある。
□ 手足にしびれや震えがある。
□ ろれつが回っていないと人から指摘される。
□ 物が飲み込みにくい、むせやすい。
□ 視野の一部が欠ける。
※多いほど、要注意です。

隠れ脳梗塞テスト【渦巻きなぞり】

紙の上に、黒いペンで5ミリ間隔の渦巻きを5周くらい描きます。
次に、黒いペンで描いた渦巻きの間を赤いペンで、両端の黒い線に触らないように、赤い渦巻きを10秒以内に描きます。

◎判定:黒い渦巻きの線と、赤い渦巻きの線とが2か所以上重なったり、はみ出したりすると、大脳基底核や小脳に隠れ脳梗塞が発生しているものと考えられます。

10秒以内で5ミリ間隔の渦巻きの間を描くためには、相応の集中力と、一定程度の手の運動神経や、視神経が要求されます。このテストでは脳神経の状態が総合的にチェック出来ます。
※興奮している時や、眠い時、疲れている時に行うと正確な結果が得られません。また定期的に繰り返し行うことで、改善効果も期待できるそうです。

関連TOPICS