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食生活の変化などによって急増!
胆嚢(たんのう)の病気

監修・取材協力:岐阜市民病院 胆膵内科部長
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向井強

Medical.T 編集部 M.Hioki

異常が生じても、初期では、ほとんど無症状であることが多いといわれる胆嚢。
胆嚢に結石やポリープができていても自覚症状が無く、健診で偶然わかることも。
進行して症状が突然現れるため、日頃から規則正しい生活を心掛けるとともに、定期的に検診を受けることをお勧めします。

胆嚢の病気-基礎知識

胆嚢は、肝臓の下面にあり、肝臓、すい臓、十二指腸に囲まれており、総胆管と繋がった袋状の臓器で、肝臓で作られた胆汁を濃縮して蓄えます。胆汁は1日に700ml程度作られる黄褐色のアルカリ性消化液で、食事で摂取した脂肪やビタミンの消化・吸収を助ける働きがあります。食事をすることによって胆嚢は収縮し、蓄えられた濃縮胆汁が総胆管を経由して十二指腸に排出されます。肝臓で作られた胆汁が十二指腸まで至る道を胆道と呼び、胆道は肝内胆管から総胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部の総称になります。
胆汁にはコレステロールや胆汁色素(主にビリルビン)が含まれているため、これらが凝縮されて結晶化すると、石状のもの(結石)が形成されます。胆道に結石ができる病態を総称して「胆石症」と呼びます。さらに結石のできる場所によって、「肝内結石」「胆嚢結石」「総胆管結石」と分類され、一般的な「胆石」とは、一番頻度が高い「胆嚢結石」のことを指します。日本人の胆石保有率は食生活の欧米化や高齢化などを背景に年々増加し、現在では成人の10人に1人は胆石を持っているとされています。
その他、胆嚢で起こる病気には、炎症(胆嚢炎)や腫瘍があります。胆嚢炎のほとんどは、胆石が原因で発症し、突然発症する「急性胆嚢炎」と緩やかに進行して持続する「慢性胆嚢炎」があります。腫瘍には良性腫瘍である「胆嚢ポリープ」と悪性腫瘍である「胆嚢癌」があります。
胆嚢の病気は、胆石が原因となるものが多いので、胆石ができないように食事や運動などの生活習慣に気を付けて胆嚢をいたわる生活を心掛けましょう。

胆嚢の病気-近年の動向

急性胆嚢炎の90~95%は胆嚢結石が原因で、日本人の胆石保有率は10%とされていますが、胆石保有者のほとんどは自覚症状がなく、有症状化率は年率1~3%と報告されています。結石保有数が多いほど、有症状化率が高くなるという報告もありますが、逆に90%以上の無症候性胆石保有者は無症状のまま過ごすことができるので、心配し過ぎる必要はないようです。また、胆嚢結石と胆嚢癌との明らかな関係はないとされていますが、大きな結石(3cm以上)や結石量(数と体積)のため胆嚢癌の存在を否定できない場合は、症状がなくても手術を勧めることがあります。「胆石症診療ガイドライン2016」では、年1回の経過観察が推奨されています。健診や人間ドックの際に腹部エコーをして、変化がないかを確認すると良いでしょう。
なお、2000年以降の報告では、急性胆嚢炎の死亡率は1%未満とされていますが、75歳以上の高齢者や糖尿病患者では重症化しやすく、死亡リスクも高くなるとの報告もあることから、より早期の診断・治療開始が必要となります。
そして、近年の食の欧米化や肥満人口の増加に伴い、胆嚢結石保有率は増加していることが推測されます。しかし、最近15年間は全国的な疫学調査が行われていないため、詳細は不明です。

【参考著書】
・胆石症診療ガイドライン2016
・急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
・高齢胆石症診療ガイドライン2018

胆嚢の病気-出やすい症状

急性胆嚢炎の自覚症状は右上腹部の自発痛(何もしなくても痛む)、圧痛(押さえると痛む)が特徴的で、腫大した胆嚢が腫瘤(こぶ)として触知される場合もあります。経過日数による病態変化のほかに、急性胆嚢炎の重症度判定は、治療方針を決定するために重要となります。75歳以上の高齢者、発熱を伴う場合、72時間以上腹痛が続く場合は、軽症を越えて中等症~重症の段階まで進行している可能性が高く、緊急治療が必要となるため、早急に医療機関を受診することが重要です。

胆嚢の病気-注意した方がよい人

以前より、5F[Forty(40代以降)、Female(女性)、Fatty(肥満)、Fair(白人)、Fecund・Fertile(多産・経産婦)]は胆石症の代表的な危険因子として有名です。しかし、近年、男性の胆石保有率が増えて男女比が逆転しています。

胆嚢の病気-考えられる主な障害

痛みが食後に出ることが多い
胆石症

胆道に胆汁の成分が固まって結石ができる病態のことで、腹痛などの症状がないものを「無症状胆石(サイレントストーン)」と呼び、治療を行わずに定期的な経過観察をします。
症状には胆道痛や胆石発作と言われる特徴的な右の肋骨の下の部分やみぞおちの痛みのほか、右肩に放散する痛み(放散痛)などがあります。胆石が胆嚢の出口に、はまり込んで胆汁を出すことができない状態(胆石嵌頓)になると、胆嚢が収縮した際に痛みが生じます。この痛みは食後に出ることが多いのも特徴です。

症状・原因・治療と予防法など詳しく読む

原因の90%は胆石とされる
急性胆嚢炎

主に胆石が胆嚢の出口を閉塞することによって、細菌感染を引き起こして炎症が生じます。
初期症状として右上腹部の不快感や鈍痛、そして、右の肋骨の下の部分に自発痛や圧痛が起こり、炎症の進行とともに激痛となり、発熱や悪寒、悪心、嘔吐などを伴う場合もあります。
急性胆嚢炎は発症からの経過日数によって病態が変化し、第Ⅰ期(2~4日)では浮腫性胆嚢炎、第Ⅱ期(3~5日)は壊疽性胆嚢炎、第Ⅲ期(7~10日)は化膿性胆嚢炎と徐々に重症化します。また、1ヶ月以上経過した慢性胆嚢炎になると手術が難しくなります。このため、早期診断・治療が重要となるので、我慢せずに早い段階で受診をしましょう。

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食生活の欧米化により増加!
胆嚢ポリープ

胆嚢ポリープの大部分は良性のため、定期的な経過観察となりますが、まれに大きくなって癌化するものがあるので要注意です。胆嚢ポリープの中で、最も多いのがコレステロールポリープであり、約90%を占めます。多発しやすいことが特徴で、近年の食生活の欧米化によって増加傾向にあります。
他には、腺腫(せんしゅ)性ポリープ、過形成ポリープ、炎症性ポリープなどがありますが、自覚症状は無く、検診などで偶然発見されることがほとんどです。精密検査で胆嚢癌を疑う所見がある場合には、胆嚢摘出術が行われます。

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胆嚢の病気
今すぐはじめる予防と対策
今すぐはじめる 予防と対策

① 1日3食の規則正しい食生活習慣を心掛ける
② バランスのとれた食事をする(魚以外の脂肪・糖分は控えめに、食物繊維の摂取)
③ 適度な運動をする(有酸素運動)
④ 極端なダイエットをしない【胆嚢の病気の予防】
⑤ カロリーの取り過ぎに注意し、肥満にならない
⑥ 食後に右上腹部痛の自覚症状がある場合は超音波検査の受診を
*適度な珈琲やアルコール摂取は胆石形成の抑制作用がある (=過度の摂取は逆効果になるので注意)

胆嚢の病気

胆石があるかも!? 食後のセルフチェック

□食後、右上腹部に違和感や不快感
□右側のみぞおち付近に鈍痛
□右肩から背中付近に鈍痛や違和感
□吐き気やおう吐
□軟便など、便通の不調
□発熱や黄疸(おうだん)
1つでもあったら、検診をおススメします。

胆石ができやすい人の生活チェック

□家族や血縁者に胆石症の人がいる
□太っている
□糖尿病である
□コレステロール値が高い
□脂っこいものや甘いものが好き
□運動不足
□ストレスが多い

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