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致命的な合併症を引き起こすサイレントキラー
脂質異常症

監修・取材協力:医療法人大河内会おおこうち内科クリニック 理事長・院長
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大河内 昌弘

Medical.T 編集部 M.Ito

生活習慣病の一つ「脂質異常症」。一番恐ろしいのは“気づきにくい”こと。自覚症状がないまま脂質異常の状態が続けば、動脈硬化を発症し、脳梗塞、心筋梗塞など致命的な疾患のリスクが高くなってしまいます。

脂質異常症-基礎知識

糖尿病や高血圧とともに生活習慣病の一つに数えられる脂質異常症。食生活の乱れや偏り、運動不足、飲酒などの生活習慣によって、血液中のコレステロールや中性脂肪が過多になる疾患です。自覚症状がほとんどないにもかかわらず、放置すると動脈硬化を発症し、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重大な疾患を引き起こす可能性があるため、サイレントキラーと呼ばれています。以前は、コレステロール値が高い人がなりやすいとされていたことから「高脂血症」と呼ばれていましたが、近年では、LDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロールのバランスが崩れることが問題だと指摘され、平成19年(2007年)に「脂質異常症」へと名称が改められました。
多くの場合、生活習慣が原因となりますが、遺伝性の家族性高コレステロール血症のほか、甲状腺機能低下症や糖尿病など他の疾患によるもの、女性の閉経、ステロイド薬の副作用などが原因となる場合もあります。

脂質異常症

脂質異常症-近年の動向

脂質異常症の総患者数は年々増加傾向にあり、平成29年(2017年)患者調査では220万5,000人にも上ります。内訳は男性63万9,000人、女性156万5,000人で、女性は男性の2.4倍も多くなっています。

脂質異常症
◎厚生労働省「患者調査の概要‐主な傷病の総患者数」を参考に弊社にて作成(平成23年、平成26年は高脂血症患者数)
※総患者数は継続的な治療を受けていると推測される患者数を指す

近年では痩せている人でも脂質異常症を指摘される人が増えています。その原因は多くの場合、糖質の摂りすぎによる中性脂肪。中でも果物に含まれる「フルクトース(果糖)」や、清涼飲料水・菓子類に含まれる「果糖ブドウ糖液糖」は血糖値を上昇させにくく、満腹感を得られないため、たくさん摂ってしまうことで残ったエネルギーが肝臓で中性脂肪として蓄積。脂肪肝を引き起こすだけでなく、内臓や筋肉など全身にも脂肪が溜まり始めます。血液中の中性脂肪も増加し、結果、脂質異常症を招いてしまうのです。
「脂っこいものや甘いものを控えればいい」「卵などコレステロールの多い食品を摂らなければいい」と思われがちですが、体の中にあるコレステロールのうち、食べ物から吸収するコレステロールは約2~3割。約7割もが肝臓で作られています。肝臓で作られるコレステロールの方がはるかに健康を脅かし、その大きな原因が糖質にあることも分かってきました。「果糖」「果糖ブドウ糖液糖」は、砂糖とは全く別物。コレステロールの多い食品や甘いものを摂りすぎないことは大切ですが、この「果糖」「果糖ブドウ糖液糖」のような糖質の摂りすぎにも注意が必要なのです。

脂質異常症-種類

LDL(悪玉)コレステロールが多い
高LDLコレステロール血症

血液中のLDLコレステロールが140mg/dl以上と過剰な状態。使われずに残ったコレステロールが動脈の壁に沈着し、プラークというコブができて血管が狭くなり、動脈硬化を進行させてしまいます。

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HDL(善玉)コレステロールが少ない
低HDLコレステロール血症

HDL(善玉)コレステロールが少なく、LDL(悪玉)コレステロールが血液中に過剰に残ってしまう状態。HDLコレステロールが少ないと、LDLコレステロールを回収しきれないため、余分なコレステロールが動脈の壁に沈着し、プラークというコブができて血管が狭くなり、動脈硬化を進行させてしまいます。

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中性脂肪(トリグリセライド)が多い
高トリグリセライド血症

中性脂肪が150mg/dl以上と高く、血液中に脂肪が多い状態。中性脂肪が増えるとLDLコレステロールの増加を促進することから、動脈硬化を引き起こすリスクが高くなります。

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新しい指標として重要視される
高non-HDLコレステロール血症

non-HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLコレステロールを除いた値。LDLコレステロールは基準値内であっても、このnon-HDLコレステロールが高くなる場合もあり、近年は脂質異常症の基準として重要視されています。

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脂質異常症今すぐはじめる 予防と対策

食生活をはじめとする生活習慣の改善が、一番の予防となります。ポイントを確認しながら、日頃から食事に気を付け、運動を習慣づけましょう。脂質異常症だけでなく、高血圧や糖尿病など他の生活習慣病の予防にもつながります。

◆食事療法のポイント
①卵、レバー、魚卵など、コレステロールの多い食事を控える
②海草、キノコ類、野菜など、食物繊維の多い食事を摂る(食物繊維は消化器へのコレステロールの吸収を抑える働きをする)
③肉の脂身や霜降り肉、バター、チーズ、アイスクリームなど、動物性脂肪の多い食事を控える(動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸はLDLコレステロールを増加させる)
④過剰なアルコール摂取を控える(アルコールは中性脂肪を増加させる)
⑤ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、EPA、DHA、ミネラルを多く摂る(ビタミンはコレステロールの酸化を抑制する働きをする。サプリメントも利用するとよい)
⑥納豆や豆腐など大豆製品を多く摂る(大豆に含まれるたんぱく質はコレステロールを下げる働きをする)
⑦植物性の油を利用する
⑧野菜→魚・肉→ごはん(炭水化物)の順に食べる(血糖が上がりにくく中性脂肪ができにくい)
⑨寝る2時間前は食べない

◆運動療法のポイント
有酸素運動はLDLコレステロールの減少とHDLコレステロールの増加に良い影響を与えることが分かっています。ウォーキングやサイクリング、ランニング、水泳などで有酸素運動を習慣づけましょう。ストイックになりすぎず、「通勤時に1駅だけ歩いてみる」「自宅でストレッチをする」などの軽い運動から始め、まずは週3回30分ずつを目安に継続しましょう。肥満解消にもなり、血行促進が期待できます。

◆その他のポイント
喫煙はLDLコレステロールを増やすため、禁煙しましょう。また、ストレスも血糖やコレステロールに影響するため、ストレスを溜めない生活を心がけましょう。

脂質異常症 リスクチェック

□ 家族に脂質異常症の人や動脈硬化症の人がいる
□ 肥満傾向である
□ 高血圧または血圧が高め
□ 日常的にあまり歩かない
□ お酒をよく飲む
□ 糖尿病または血糖値が高いと指摘されたことがある
□ 痛風がある
□ 肉や脂っこい食べ物が好き
□ 甘いものや乳脂肪製品(生クリームや洋菓子)、フルーツが好き
□ 清涼飲料水をよく飲む
□ 閉経した女性

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