心臓の病気

突然発症し、死に至ることもある
心筋梗塞

監修・取材協力:岐阜ハートセンター院長
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医学博士 松尾 仁司先生

Medical.T 編集部 A.Ito

  • 心筋細胞が壊死した状態です。
  • 「痛い」というよりも「圧迫感」「締め付け感」があります。
  • 症状に気がついたら放置せず、一刻も早い治療が望まれています。
  • 心筋梗塞を疑う症状がみられたら、救急車を呼びます。

心筋梗塞の基礎知識

心臓に酸素や栄養を送る血管である冠動脈が細くなったり詰まったりして、心臓に十分な血液が供給されないために起こる「虚血性心疾患」の一つです。狭心症と同様、血管にプラーク(悪玉コレステロールや炎症細胞などが塊となったもの)がつく病状ですが、急に血栓(血の塊)ができて冠動脈が完全に閉塞し、心筋に血液がいかなくなり、その部分の心筋が死んで(壊死)しまいます。そのため、心臓に後遺症を残します。
プラークの量より質が問題で、血が不足している状態(虚血)が数十分以上続いて元に戻らないため、心臓の筋肉にダメージを与えます。虚血の状態が長ければ長いほどダメージを受ける心筋の量が増えていくので、一刻も早く血液の流れを再開させて、虚血をとる必要があります。心臓が停止することもあるため、症状が現れたら、すぐ救急車を呼びましょう。

心筋梗塞の動向

心筋梗塞は突然、発症し、死に至ることがある病気です。
しかし、心筋梗塞を発症した人の50%は、前兆症状が現れていたことを自覚していることが分かりました。胸の痛みなど、今までにはなかったような症状が現れた場合は、循環器内科を受診して検査を受けることが勧められています。

心筋梗塞の症状

早い治療を受けるためにも症状を知っておくことが大切です。
突然、強烈な胸の痛みや圧迫感しめつけ感があり、徐々に左腕の内側や下顎、歯茎や喉に広がっていく場合もあります。みぞおち辺りに激しい痛みを感じる場合もあります。上半身のしめつけ感が30分以上、続くことが特徴です。圧迫感とともに冷や汗が出たり、吐き気があったり、過呼吸状態になったりすることもあり、痛みがなくても、冷や汗や顔面蒼白、一時的な意識障害が起きることもあります。症状を発症しないケースも全体の2〜3割に認められます。
75歳以上の高齢者、主に女性の場合、心不全や糖尿病の患者、脳卒中を起こしたある人は症状が軽く、見逃してしまうこともあるので、注意が必要です。初診の心電図などに異常が現れないこともあり、心筋梗塞だと診断されないこともあるため、帰宅後もよく注意して、同じ症状や異常が出た場合はすぐ受診をしましょう。
また、左肩の激痛で整形外科へ、みぞおちの痛みで消化器官科へなど、心疾患と思わずに別の科を受診して、治療が遅れるケースもあるので、注意が必要です。

[前兆症状を見逃さない]
心筋梗塞の発症をした50〜60%の患者さんには、前兆症状があることが分かっています。この段階で受診をすれば、適切な治療や発病を予防することが可能です。長時間ではありませんが、夜間や安静時に、胸に圧迫感があったら前兆症状かもしれません。早めに循環器内科を受診しましょう。
◎下記に「前兆のセルフチェック」を記載しています。

心筋梗塞の原因

動脈硬化などで心臓の血管が詰まり、血液の流れが悪くなることが原因になります。心筋梗塞の発生早期に起きる不整脈、主に心室細動が原因になって、心臓が停止することもあります。心室細動を止める除細動器を使用できるのは救急車のみなので、そのためにも、救急車を呼ぶことが重要になります。

[動脈硬化の危険因子]
・糖尿病
・糖尿病
・高血圧症
・高脂血症(コレステロール)
・タバコ
など

心筋梗塞の検査方法

●心電図
正常時は分からない場合がほとんとですが、発作時には、STの変化がみられます。心臓のどの部分に異常があるのか、不整脈があるかどうかを確認することができます。過去に心筋梗塞があったかどうかは分かることがあります。●運動負荷心電図
運動をして心臓に負荷をかけて、その心電図を記録し、負荷前後の心電図を比較します。負荷をかける方法としては階段昇降(マスター負荷)、ベルトコンベアでの歩行負荷(トレッドミルテスト)、自転車負荷(エルゴメーター)などがあります。比較的簡単に行うことができます。

●ホルター心電図
携帯用の心電図を日常生活下で24時間記録します。不整脈の診断に用いることが多い方法ですが、診断の手助けになります。

●心臓超音波(心エコー)
部分的に心室の壁運動が低下していることが分かります。

●心筋シンチグラム
安静時・負荷時の心筋の血流の分布や代謝を調べます。心筋への血液量が十分かどうかをみます。

●冠動脈CT
冠動脈の狭窄を診断できる症例が増えており、血管の状態(石灰化や動脈硬化の程度)も判断できます。血管が細いかどうか調べる際には、数値で分かる重症度(CT FFR)を用います。
この検査は造影剤を腕の静脈から注射してCT撮影をするだけの簡単な方法です。時間は約15分程度で、入院の必要はありません。ただし、綺麗な画像を撮影するために、検査前に冠動脈の拡張薬や脈をゆっくりにする薬を使用して行います。
危険度の少ない検査ですが稀に検査後に蕁麻疹などのアレルギー症状を生じることはあります。また腎機能の悪い患者さまでは検査できないことがあります。
また、石灰化(血管がかなり硬くなっている)の多い場合やすでに冠動脈にステント治療がなされている場合は、冠動脈の狭窄の判断ができないこともあります。その際は冠動脈造影検査を行います。

●冠動脈造影(カテーテル検査)
カテーテルを手首もしくは肘・そけい部の動脈から冠動脈に挿入し、造影剤を使用して冠動脈の狭窄や閉塞が血管のどの部分にあるかをみる検査です。CTでは判断できないことがある石灰化の強い病変の狭窄やステント内再狭窄等も、診断可能です。また、必要であればそのままカテーテル治療に移行することができるのが強みです。
以前は血管の細さは術者に委ねられていたため、術者の経験が問われることがありましたが、狭窄の程度を数値で測る(FFR)ことができるようになりました。
実際には、プレッシャーワイヤーと呼ばれる柔らかいワイヤーを狭窄部分の奥まで入れて、狭窄の強さを測ります。数値が小さいと高度な狭窄が起きている、ということになり、カテーテルでステントを入れる治療を行います。数値が大きいと狭窄はそれほど高度ではないと判断します。

●血液検査
心筋梗塞になった、またはなりかけの状態では、心筋細胞が障害を受けます。血液検査によって心筋障害のマーカーを調べることによって心筋梗塞が起きているか起きかけているかを診断することができます。あまりに早い時期だと、正常と出ることもあります。
また、血管中の炎症の状態を調べる「高感度CRP検査」では、心筋梗塞のリスクを予知することができます。血管が炎症を起こすと、血液中にC反応性タンパク(CRP)という物資が増加。健康診断時の血液検査項目にもCRPは含まれていますが、測定レベルが高い高感度CRP検査で心筋梗塞の早期発見に役立てることができます。

心筋梗塞の治療方法

発症した時に放置せず、一刻も早い治療が望まれます。
主に緊急的にはカテーテル治療が行われます。

●カテーテル治療・冠動脈形成術(PCI)
後遺症をできるだけ少なくするために早くカテーテル治療、主に冠動脈形成術(PCI)を行います。カテーテルでステントを狭窄部まで送り込み、バルーンで膨らませて狭窄を押し広げて拡張させ、ステントを留置します。ステントの性能を生かすために、血管の硬い部分やプラークが多すぎる場合は血管を削ってからステントを使用します。
PCI治療を行った後も病気は進行するので、生活習慣の改善も必要になります。

【ステントを留置した血管】
ステントを留置した血管

●冠動脈バイパス手術
カテーテル治療がうまくいかなかった場合や高度な左主幹部病変などの場合は冠動脈に新しい道をつけるための手術を行います。心筋梗塞が起きてから3日以内の手術成績はあまり良くないことから、3日以内に行う手術は大変危険性の高い場合に限られます。

●薬物治療
冠動脈の1本だけに問題がある場合や血栓を予防するために行います。アスピリンなどの抗血小板剤ニトログリセリンβ遮断薬などを使用します。

心筋梗塞の合併症

●心臓の動きが悪くなります
心臓の機能が低下し、送り出す血液の量が減ります。その結果、下肢のむくみや呼吸困難、心不全が起こりやすくなります。●不整脈が起きやすくなります
壊死した心筋の周囲が原因となり、異常な脈が起きやすくなります。ひどい場合は突然死をする場合もあります。

●心臓の筋肉がもろくなる
心筋梗塞を発症してから1週間以内くらいは心臓の筋肉が豆腐のようにもろくなっています。この時期に心臓に過剰な負荷をかけると心破裂をおこし、死亡することがあります。

心筋梗塞の自宅療法(療養方法、再発防止など)

発作そのものの予防と、その他の心疾患につながる動脈硬化の進展の予防が必要になります。
発作の予防としては、血管拡張薬抗血小板剤(血をサラサラにする薬)を使用します。血管拡張薬は発作の種類によって薬剤が異なります。
動脈硬化の予防としては、喫煙、暴飲暴食、糖分や脂肪分のとりすぎをやめ、穏やかな生活を送るようにこころがけます。
家族歴がある人は一度、検査を受けることが勧められます。
糖尿病や脂質異常病のコントロールが大変、重要です。特に、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールは70mg/dl以下に管理することが重要といわれています。

心筋梗塞の予防・対策方法

発作そのものの予防動脈硬化の進展の予防が必要です。
発作の予防は血管拡張薬や抗血小板剤(血をサラサラにする薬)を使用します。血管拡張薬は発作の種類によって薬剤が異なります。

[動脈硬化の予防]
・肥満を解消する。
・動物性脂肪を減らす。
・適度な運動を取り入れる。
・喫煙を控えめにする。
など

心筋梗塞のリスクチェック

□ 胸の痛み、圧迫感、しめつけられるといった症状がある。
□ 胸やけがする
□ 腕・肩・歯・あごに痛みがある。
□ 上記の症状が数分〜30分程度で治る
□ 繰り返すことが多い
□ 階段や歩行等の労作で発作が出る、または悪化することがある

心筋梗塞のセルフチェック

□ 胸が焼けるように重苦しい、押しつぶされる、しめつけられるといった症状がある。
□ 冷や汗、吐き気がある。
□ 上記のような症状が30分以上〜数時間続く。
□ 狭心症と診断されている。

このような症状がある場合はすぐに救急車を!

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