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胸の痛み、苦しみがあれば疑って
心臓の病気

監修・取材協力:岐阜ハートセンター院長
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医学博士 松尾 仁司先生

Medical.T 編集部 A.Ito

血液を全身に送り出すポンプの役割をしている心臓。
何らかの原因によって心臓がうまく機能しなくなることで胸の痛みや苦しさなど、胸周辺にいつもとは違う症状が現れることがあります。

心臓の病気-基礎知識

全身に血液を送るために、心臓の筋肉が収縮と拡張を繰り返しています。ところが、心臓の周囲に張り巡らされている冠動脈や、血液の逆流を防いでいる心臓弁などの機能がうまくいかなくなり、心筋に酸素がいかなくなると、胸などに痛みを感じるようになります。
心臓病とは、心臓に関係するさまざまな病気があり、血管が徐々に狭くなってゆっくりと病状が進行する場合や、突然発症して心臓が停止してしまう場合など、病態や症状もさまざまあります。
例えば、酸素と栄養を含んだ血液は心臓を出ると冠動脈を流れ、全身へ流れていきますが、この冠動脈の流れが悪くなった状態を「虚血性心疾患」といいます。「心不全」の要因にもなります。
また、突然死を招くような危険な病気もあります。不整脈の中でも「心房細動」は脳梗塞を発症する要因の3分の1を占めており、特に高齢の方には発症しやすいとされています。若い人にも脳梗塞を発症することがあるので、油断はできません。
心臓病の治療法も薬物療法からカテーテル、手術などさまざまあります。心臓の病状、患者の年齢や状態、生活環境などを考慮しながら、内科的、外科的、療法からアプローチしてベストな治療法を選択します。

死因順位の2位が心疾患です
平成30年の死亡数を死因順位別にみると、第2位が心疾患(高血圧性を除く)で20万8210人となっています。心疾患は昭和60年に第2位となり、その後、死亡数・死亡率ともに増加傾向が続いています。

【主な死因の構成割合(平成30年)】
主な死因の構成割合
◎厚生労働省 平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況より

●心臓のことを知ろう
心臓は全身に血液を送り出すポンプのような働きをしています。1日に約10万回、24時間、生まれてから死亡するまで収縮と拡張を繰り返しています。
大きさは握りこぶしほどの大きさで、心筋という筋肉でできています。
左心房、右心房、左心室、右心室と呼ばれる4つの部屋があり、リズミカルに拍動を打つことで心臓から全身へ血液を送り出しています。
全身を巡ってきた血液は右心房から入り、右心室へ送られます。肺動脈から肺に送られた血液は酸素を受け取って左心房へ入り、左心室へ送られて大動脈を通って全身へ流れていきます。
右心室と左心室の入り口と出口には弁がついているので、血液の流れを一方向へ維持することができます。

【心臓の姿】
【心臓の姿】

心臓の病気-近年の動向

正確に、体に負担をかけない治療が行われるようになり、選択の幅が広がっています。そのため、患者の年齢、病状、生活環境などを考慮しながらベストな方法を選ぶことができるようになりました。

●大動脈弁狭窄症の手術で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が行えるようになりました。前胸部を切開せず、カテーテルを使って大動脈弁を人工弁に取り替えることができるため、体への負担を少なくして治療できるようになりました。

●心房細動の治療にDOAC(抗凝固因子を阻害する薬)を用いたり、冷凍アブレーション治療ができるようになりました。

●カテーテル検査で狭窄の程度を数値化できるようになり、狭心症や心筋梗塞の治療による冠動脈形成術(PCI)の効果を高めることができるようになりました。

心臓の病気-注意した方がよい人

□ 中年・高齢
□ 生活習慣病をもっている
□ たばこを吸う
□ よく飲酒をする
□ ストレスが多い

心臓の病気-出やすい症状

それぞれの病気によって異なりますが、症状はさまざまあります。
また、突然死することもある心筋梗塞の前兆症状を見逃さないことが大切です。胸の痛みや今までになかったような胸の痛みや圧迫感があったら、循環器内科を受診しましょう。

主な心臓病の症状
●胸の痛み
特に虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)による痛みの場合は胸のしめつけ感、胸の違和感、胸の重圧感があります。

●そのほかの部分の痛み
のど、左肩、左腕、みぞおちなどに痛みやしめつけられる感じがあります。

●動悸
期外収縮(脈がとぶ)、頻脈(突然、脈が早くなる)、徐脈(脈がゆっくりになる)のどれから起き、また、めまいや気を失うこともあります。静かにしていると気がつく動悸もあります。

●そのほか
倦怠感、息切れ、むくみが起きることもあります。心不全の場合、労作時の息切れや横になった時の呼吸困難、夜間に発作的に呼吸困難になることもあります。

心臓の病気-考えられる病気

冠動脈の流れが悪くなる
虚血性心疾患きょけつせいしんしっかん

心不全の原因の一つです。酸素と栄養を含んだ血液は心臓を出ると冠動脈を流れ、全身へ流れていきますが、この冠動脈の流れが悪くなった状態を「虚血性心疾患」といいます。急激に冠動脈が途切れる「急性冠動脈群」とじわじわとゆっくり動脈硬化が起きて血流が悪くなる「慢性冠動脈疾患」があり、「急性冠動脈群」の代表は心筋梗塞、「慢性冠動脈疾患」の代表は狭心症です。

【狭心症と心筋梗塞の違い】
狭心症 心筋梗塞
血管の状態 狭窄はしているが、血液は流れている。 血栓で完全に閉塞している。
心筋の状態 元に戻すことが可能。 壊死してしまう。
症状 胸部の締め付け感、圧迫感 胸部の強い締め付け感、痛み、冷や汗
症状の持続時間 数分、長くても30分以内 15分以上から数時間
発作の起こり方 体を動かした時。再現性がある。 動作と関係なく起こる。
ニトロの効果 効果あり あまり効果はない

冠動脈が詰まる要因には2タイプあります。
●コレステロールの塊を覆う膜が破裂して、血栓ができるタイプ
食生活や老化によって動脈硬化が進行すると、冠動脈の内側にプラーク(コレステロールの塊)ができます。この状況ですでに、血液が流れにくい状態ですが、何かがきっかけとなり、コレステロールの塊を覆っていた内膜が破裂すると、血管の内側に傷ができます。

傷を細菌やウイルスから守ろうと、血栓ができます。

血栓ができると急に血管がふさがれるため、心筋梗塞の症状が出ます。

血栓の一部が溶けて、血が再び流れれば、心筋梗塞の発症はありません。この場合は一時的に血流が止まるもののすぐに再開するため、胸の痛みは5〜10分ほどで治ります。その後は安静時に症状が繰り返し起こり、少し動いただけでも胸が苦しくなり、心筋梗塞を発症することになります。
内膜が破れる原因は分かっていませんが、喫煙、悪玉コレステロールなどで傷がつけられるのではないかと言われています。特に、精神的なストレスや寒冷ストレス(温度差)で傷がつきやすいことが分かっています。

●徐々にコレステロールの塊が大きくなり、冠動脈がふさがれてしまうタイプ
傷はつかず、動脈硬化がさらに進行して塊が血液の流れを止めてしまう場合です。心臓は安静時に比べて、運動時は4倍もの血液が必要になります。しかし、冠動脈の70%が塞がっていると、運動時に必要な血液が流れなくなり、胸に症状が現れます。
例えば、それまでは平気だった階段昇りで胸のドキドキや息切れをします。血流が完全に止まるわけではありませんが、単なる運動不足だと思ってしまい、虚血性心疾患に気がつかないこともあるので、注意が必要です。

動脈硬化などが要因になる
狭心症きょうしんしょう

心臓の表面に張り巡らせている冠動脈が何らかの原因で狭窄し、血流が不足する症状です。冠動脈は心臓の筋肉へ栄養や酸素を運んでいるので、酸素不足に陥った状態になり、症状が現れます。心筋が虚血の状態になっても再び元に戻り、ダメージは受けませんが、心筋梗塞へ以降する場合もあるので、注意が必要です。狭心症の多くは時間をかけてプラーク(悪玉コレステロールや炎症細胞などが塊となったもの)が血管につき、徐々に血管が狭くなっていきます。

症状・原因・治療と予防法など詳しく読む

突然発症し、死に至ることもある
心筋梗塞しんきんこうそく

血管にプラーク(悪玉コレステロールや炎症細胞などが塊となったもの)がつく病状ですが、急に血栓(血の塊)ができて冠動脈が完全に閉塞し、心筋に血液がいかなくなり、その部分の心筋が死んで(壊死)しまいます。そのため、心臓に後遺症を残します。
プラークの量より質が問題で、心臓の筋肉にダメージを与えます。心臓が停止することもあるため、症状が現れたら、すぐ救急車を呼びましょう
心筋梗塞は突然、発症しますが、前兆症状が現れていたことを自覚している人もいます。胸の痛みなど、今までにはなかったような症状が現れた場合は注意が必要です。

症状・原因・治療と予防法など詳しく読む

心臓弁が変性・硬化して起こる
心臓弁膜症しんぞうべんまくしょう

心臓には血液が逆流しないように4つの弁(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)がついています。この弁が炎症や外傷、先天的など、なんらかの理由により、動かなくなった病気を心臓弁膜症といいます。
心臓弁膜症には数種類のタイプがあります。

症状・原因・治療と予防法など詳しく読む

治療が必要ないものから危険なものまである
不整脈ふせいみゃく

一定の間隔と強さで打つべき心臓が、なんらかの理由でリズムが乱れた状態を不整脈といいます。脈がとぶように感じる「期外収縮」、脈が速くなる(脈拍が1分間に100回を超える)「頻脈」、脈が遅くなる(脈拍が1分間に50回以下になる)「徐脈」、心筋が痙攣したように動く「細動」があります。
健康な成人にも不整脈は起こることがあり、治療の必要のないものもありますが、「心房細動」のように、脳梗塞を発症する危険な不整脈もあります。

症状・原因・治療と予防法など詳しく読む

心臓の病気の行く末
心不全しんふぜん

心臓の役割がうまく機能できなくなっている状態です。原因はさまざまあり、あらゆる心臓の病気から心不全になる可能性があります。2018年に公表された「急性・慢性心不全診療ガイドライン」では、心不全の進行状態を4ステージに分けています。

症状・原因・治療と予防法など詳しく読む

心臓の病気-治療方法

各病気によって異なりますが、主に、薬物療法、カテーテル治療、外科的治療があり、進行状況、患者の年齢・状態などを考慮して治療をします。

●薬物療法
胸の痛みを治めるためにニトログリセリン、血栓を予防するために抗血小板剤、血流を促す抗血凝固剤、強心薬、血管拡張剤などがあります。

●カテーテル治療
足の付け根などからカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、心臓の近くまで移動させて治療をする方法です。例えば、狭心症などで血管が狭くなっている場合、血管の狭くなっている部分をバルーンと呼ばれる管を膨らませて拡げ、そこに、ステントと呼ばれる網目状の金属筒を広げて留置します。カテーテルを引き抜いて、治療が終了します。

●外科的治療
前胸部を開き、冠動脈バイパス手術、人工弁置換術、ペースメーカー手術などをします。手術中は人工心肺装置を用いて心臓を停止させます。

心臓の病気今すぐはじめる 予防と対策

  • 生活習慣病の予防

  • 低脂肪、糖質控えめ、減塩などの食事

  • 飲酒を控える

  • 適度な運動をする

  • 適正体重を維持する

  • 定期検診を受ける

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